多少憎らしきもの、鼻の影淡きもなんとなくまるまるとして猫に類して愛らしきもの、目と目と遠く離れて鳥に類するもの、造作長く上下に延びて狐や馬の如きもの、あるいは短くして狸の如きもの、鼻のみ見えて象を思わせるもの、目の位置上方に過ぎて猿に似たる、その他微細の変化によって幾千億の顔をこの地球の上に現している。その中で子は一人の母親の顔を記憶する。自然の力の不思議を私は奇妙に感じている。

 私は男の故をもってか、男の顔にはあまり興味が持てない。まず男については聖人か君子か、おめでたいか、悪人か、厭な奴か、善良な者か、色魔か、福相か、貧相か、馬鹿か、目から鼻へ抜けるけちな奴か、等の区別をつける位のあらゆる観相的なことのみに興味は多少持てるけれども、女の顔にいたっては本当の観賞を企てることが出来る、そしてあまりに多く興味を持ち過ぎて、うっかりするとその観相の方面を誤りはしないかとさえ思われることさえあるような気がする。要するに女の顔を見る時にはあまりに純情的になり過ぎる嫌いはありそうだ。
 したがって私は相貌、人品ともに世界第一位としてただ一人という女神のような顔があるとは思えない。またあっても交際すると案外つまらないものであるかも知れないと思う。多少の歪みや欠点はあっても、千差万別の顔をことごとくそれぞれの特質をつまみ出して賞する方が私には適当している。
 しかしながら顔についての大体の好き嫌いというものが各人に存在するようである。私は鼻高過ぎてやせている狐面や長くて馬に類するものよりも、鼻低しといえども丸々として猫に類する厚ぽったい相貌を好む。ことに西洋の鷲鼻の女が怖ろしい。彼女が一尺の距離に近づくと、それは天狗とも見えてくる。私の好みは支那、日本の鼻低くして皮膚の淡黄にして滑らかなものを選ぶ。
 しかしながら低い鼻といっても、平坦にして二つの穴が黒く正面へ向かって並んでいるのは珍奇であり下等である。その他皮膚の毛穴や、鼻のつけ根や、目尻や耳の中、そのつけ根、その皺、口の周囲等に何か不潔なものが溜っていたり、その形妙にいじけて歪みたるはほんとに貧相にして不幸な心を起こさせるものである。
 私のもっとも嫌な思いをするのは日本ものの映画において女優が大写となって笑う時、何とそれはいじけてけち臭く下等に見えることであることかと思う。日本の女がフィルムの上で本当に心もちよく笑い得
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