女の顔
――私の好きな――
黒田清輝

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)混血児《あひのこ》
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 その時代によつて多少の相異はあるがクラシツクの方では正しい形を美の標準としてゐる。然し私には、このクラシツクの方でいふ正しい形は、どうも厳格すぎるやうな感じがする。
 即ちこれを日本人に応用すると混血児《あひのこ》になつてしまふ。嫌ひといふではないが絵にするには少し申分がある。眼のパツチリした、鼻の高い、所謂世間で云ふ美人は、どうも固すぎると思ふ。
 と云つて又、口元に大変愛嬌があるとか、苦《にが》みばしつてゐるとかいふやうな、特に表情の著しい顔は好かない。一口に云ふと、薄ぼんやりした顔が好きです。
 目の細い、生際《はへぎは》や眉がキツパリと塗つたやうに濃い顔はいけない。鼻筋の通りすぎたのも却つてよくない。中肉中背といふことも勿論程度問題ではあるが、どちらかといへば、中背は少し高い位、中肉は少し優形の方がいゝと思ふ。つまりスラツとした姿の美しい女がいゝ。
 この絵は、ルネツサンス時代のフロオレンスの絵画によくあるやうな上品なスツキリとした優美――意気でな
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