、あなたは赤面なさいます。なにとぞ許して下さい。思うに謙さんは純潔なのでしょう。それでわからないのでしょう、肉の交わりはたしかに醜な、エゴイスチックなものです、ひとりの少女に対して、もし性欲が起これば、その時の心のなかには愛はありません。異なった動機があります。その動機は天より来るものでなく、地獄にいたるような性質のものです。男と女とは性欲においては互いに食い合う獣のような相にあります。私は恥ずかしくてその証をすることができません。このことはだんだん詳しく申し上げますつもりですが、私は性欲のない、性のねがいというものを心に描きます。肉の交わりのない、しかも性のねがいの飽和する男女の恋、それにはエゴイスチッシュな動機の少しも交わらぬ恋を求めます。それは楽園を失う私たちにはたとえ許されなくとも、私はかかる恋を求めます。もしエゴイズムが悪しきならば肉の交わりは悪しきものです。たとえそれが子供の生まれる唯一の道であるにしても、肉の交わりをする時の男の心はエゴイスチッシュであることは私は今は疑いません。肉交の恐るべきは、その時男女は互いに犯しながら、愛を行のうたと自ら欺くところにあります。私たち
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