ュな空気を持っていないために、口実を作って寄らずに帰りました。そして恨まれました。
私はまた今|悶《もだ》えの底に沈んでいるひとりの妹の宅に寄るのにも、どんなにその家の貧しさから生ずるアンプレザントなことをきろうて、またひとりの叔父のかたくなな性質に触れることをいとうために妹を愛する心を鈍くしたかもしれません。そして私は冷淡な心に自ら責められました。
私たちのようにすべてのものに要求の強いものには、十字架はますます重荷になります。私は愛することの善きことを知って、愛の実行のできない人間です。私を愛の人だといわれる時、私は空恐ろしくなります。私は愛を問題としている人で、愛の人ではない。私の真相はエゴイストです。文之助君がいったとおりです。私は人と親しい交わりにはいろうとする時、このことが気になってなりません。
私はいろいろな問題から促されて宗教の方へ赴くようになります。いかにすれば世界はコスモスとなるのでしょうか。人と人との交わりはなめらかに、そして心の願いは互いに乖《そむ》かずに、音楽のように、諧和するでしょうか。これ私の一生の問題です。
私はやはり庄原でも教会に参ります。私に
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