きます」と。そして神の知恵を祈り求めます。
 愛はたのしいよりも苦しいものですね。私は愛のなかに含まるる犠牲というものをこの頃は深く感じます。そして愛の必ず十字架になることを思わずに、愛を語っていた愚かさを知りました。愛の本質は犠牲です。そして私は、この頃の多くの人々のように、何ものも自分のほしいものを捨てずに人を愛そうとしていたのでした。そしてその結果は何びとをも愛することはできないのでした。愛が十字架になるのはその犠牲の対象は、私たちのわがままならぬ動機よりほしきものを含むからです。はれやかな眺めと自由の空気、居心地よき部屋を得たき願い、善き友、尊き書物、美しき妻を得たき願い――このようなものも愛のための犠牲に供せらるべきものです。そしてそれを拒むならば愛の実行はできないように思われます。神の祭壇にはこれらのものをもひとたび献げなければ聖霊を受け取ることはできないというのは、私はもっともとうなずかれます。そしてそれは十字架でなくて何でしょう。他人の運命を自分の問題とするときにのみ真の愛はあると思います。私は妹をも、お絹さんをも、父母をも、愛することができないのは、私がこの十字架を負
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