免れんがためにその妻をもつべし、そは胸の燃ゆるよりはまされば也」といったのを思い出します。じっさい私は時々私の女を見る目を純にするために、妻を持とうかと思うことがたびたびあります。まことに恥かしいしだいですけれど私はそう思われます。肉に飢えたる貪婪《どんらん》の心を思うと、実に浅ましくて、そのような心で女を見ることは実に嫌悪すべきものと感ぜられます。私は私と共生することをせつに希む女と結婚し、そして妻とともに貞潔に志すべきではなかろうか、と思われることもあります。また私は結婚によってさまざまの虚栄心を滅ぼすことができはしまいかと思われます。すなわちよき妻の映像に刺激せられて勉強したり、未婚の婦人と甘ゆる心、媚びるまなこで接したりするようなアイテルな心から免れることができはしまいか。事業、創作などをば真に人類的な目的で営むためには、これらのまどわしは、かなり大きな障害ではありますまいか。虚栄心があっては真に仕事はできません。そして恥ずかしながら私には女は最も大きな虚栄の源になります。私はいっそ結婚してしまおうかとも思います。けれど結婚に関しては熟考を要する問題は他にたくさんあります。私は
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