かなところに住んでいたいと思わないことはありません。私はもはや永くあなたと会いませんね。私はお懐かしく存じます。
 私はどのような境遇にても忍んで生きたいとは思いますけれど、ことさらに私の魂の育ち行くのにフェボラブルでないところに住みたくはありません。ことに心の平静をこぼちほしいままな荒々しさや働きのない懶惰《らんだ》な気分のなかに住むことは、もっとも不幸に感ぜられます。私のように誘われやすい弱い、醜い性格のものには、周囲は侮りがたき勢力をもって迫ります。私は病院にいた時のような純な愛の感激を、この地では心に味わうことができません。私は周囲を責めるより私を鞭うたねばなりませんけれど、また私の淋しい傷ついた魂と病めるからだとでは、ふさわしからぬ周囲の事情風物をも責めずにはいられません。つづまるところ、私のこの地に来たのは神のみ心でなかったかもしれません。私は尾道にいる私の姉が、来月この地に来るならば、これに妹を托して私は庄原のあの森と池との離れ家に帰ろうかとも思っています。妹と私とは同じような生活をするのはよほど無理です。そのはずです。私が思いますには、私のようにエゴイスチッシュなものは
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