の間の手紙に結婚のことを書きましたけれど、あれはそうも思われると申しただけで、そう決めているのではありませんし、また他に考えねばならないことのいくらもあることも、承知いたしています。ただ私はいかにして純なる心で女性を愛すべきかという現実の煩悶《はんもん》を、常に持っています。性の問題は私には実に困難な問題に感ぜられます。そしてこれがために少なからず心の平安を乱されます。
私は尾道の姉の来るか来ないか決まるまで、心を静かにして苦痛を忍耐し、妹を慈しみつつ、養生いたしますから安心して下さい。今日は久しぶりに太陽の姿を仰ぎました。二、三日来の風邪心地も去って、少しはすがすがしくなりました。私は持病が二つもあって、何かにつけてたいそう都合の悪い生き方をしなくてはならない身ですけれど、それでも神様は私を何かのお役に立てて下さることと信じます。なにとぞあなたはいつまでも私を憐れみ愛して助けて下さいまし。
弱きもの、貧しきもの、愚かなものを虐《しいた》ぐる、あるいはそしらぬ顔の傲慢《ごうまん》ほど憎むべきものがありましょうか。私は人生の悲哀と愛の運命と、これらのものとはなれて生きて行く気はいたし
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