てすぐに彼女の心を知りました。また叱られはずかしめられて私に訴えに来たのです。
「おいどうした、どうした」
と、私は近づきながらたずねました。すると塀《へい》に顔をつけて身ぶるいして泣くのです。その時私の付添婆が帰って来てその事情を話しました。お松は湯たんぽを落として足の指をひどく負傷しました。そして看護婦にたのんで繃帯してもらったのを主人のお嬢さんが無慈悲に叱りののしり、そして金を惜しんで診察も受けずに癒《なお》るものかなどと言って辱かしめたのです。貧しき彼女は診察の金もないのです。
「わたしは、わたしは……いくらお嬢さんでも……」
などとすすり泣くばかりでものもいえないほどでした。私はふるえる赤い髪と足の繃帯と、小さなあげ[#「あげ」に傍点]のある肩を見た時思わず彼女を抱きました。
「あした、医者に見ておもらい、金は私が持ってる、いけないね、実にいけないね」
私は腹が立ちました。そして付添婆がお松をなだめて連れて出た時私はお嬢さん(聖書の講義をしている娘)を叱りに行こうとして、かえって悪いと思って室《へや》にとどまりました。そして私の興奮を抑えることができなくて窓にすがりまし
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