ことができるようになりました。私はそれを恵みと思っています。私はこの頃は神に対し、人に対して感謝することを知ってきました。
 私ごときものがこうして何不自由なく、(私はそれを享ける値はない気がします。ましてそれを要求する権利などはどこにもない気がします)暮らしてゆくことができることを感謝せずにはいられません。私は父の恵みと、友の好意と私の著書をよんでくれる人の報謝とで暮らしています。「われらの日々の糧を今日もまた与えたまえ」というような感じがしています。
 私はいつも寝てますけれども、常に看護してくれる妻と、忠実なる助手とまた愛らしい男の子とまたその子供を非常に可愛がってくれる子守とに囲まれ、書物や絵や音楽が与えられ、晴れた日には「海の幸」を思わせるように港に賑わう船を数え、また窓の下の少しばかりの草木や、鳥やを楽しむこともゆるされています。私の心が貧しく潤うているならば、私の日々新しい興味で生きてゆく途《みち》は残っていると思います。心静かに暮らしていますからよろこんで下さい。家内と子供とは実は赤痢だったのですが、幸いに全快しましたから安心して下さい。
 クリスマスには地三におもちゃ
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