ありません。どうぞもっとよくなるまでゆるして下さい。私は読むことと書くこととを禁じられているのですから。何もかもこらえるほかはありません。
 あなたもからだを大切にして勉強して下さい。私はあなたがたを悲しく、なつかしく思います。なにとぞ熱が下ってくれればいいがと祈っています。世界が暗く暗く心に映ります。新年とともに幸福を待ったのはそらだのみでした。どうぞ大切にして下さい。あなたはからだは丈夫でも、他に魂の不幸を負わされていらっしゃる。私はそれを忘れたことはありません。何といいましょう。忍べということもいい古しました。祈りに倦みそうな誘惑さえ感じられます。でも祈るよりほかに術《すべ》はありませんね。もっとよくなったら手紙をかきます。今はかなしみに打ちかたれています。
 広島市木挽町中村病院に入院しました。昨日の夕方に。[#地から2字上げ](久保正夫氏宛 中村病院より)

   久保正夫氏宛

 あなたはさぞ私のことを心配して、私の手紙を待っていて下さることと思います。私も手紙がかきたいのですが、この五日ほどすこしですけれども血が出たあとの安静を命じられているのと、根気がないのとでほんの容
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