うては、あせります。弓矢取るもののふに比べれば、ペンを執るものの文運を神々に祈りたくなります。
 江馬さんが、私のを読んでくれたのと、佐藤氏に話してくれたのについて私がありがたがっているとおっしゃって下さい。私もいつか、江馬さんと親しくなるだろうと思っています。あなたの手紙にしばしば出る奥さんもいい人のようですね。
 まだ書きたいことはたくさんありますが、夜がふけますから、またこの次に残します。今夜は霜をあざむくようないい月夜で、海をへだてて島山が凍るように冷たくかたまって黒く見えます。私はひとりで外套を着て海べを歩きました。乾草の堆や小舎《こや》などある畑の側の広場に立って、淋しい月あかりの海を見て立ちました。舟がかりをしている漁師の船窓にはあかりがこもっていました。この寒く透き通る空は脅かすような威厳の感じを持っていますね。長く見てはいられなくなります。さようなら。[#地から2字上げ](久保正夫氏宛 一月七日)

   病重くなり、常臥時代始まる

 私はまた不幸に襲われました。私は病気にかかって入院しました。私はあなたに長い長いお手紙をあげたいのですが、熱があってどうしても根気が
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