の救い主の誕生を祝う何の美しい催しもありません。人は早くから戸を鎖ざして、海から吹いて来る寒い風をふせぎ、一日の労働――この頃は全村こぞって、牡蠣《かき》を殻からこわして出す見るから冷たそうな仕事を一日じゅうしています――の休息をするために炉辺に集まっています。私たち三人も今夜は仕事を休んで、火を囲んで親しい話や無邪気な遊びをして過ごそうと思っています。庄原であなたとして遊んだ花合わせなどをして、――外は風が吹いてすぐ裏の小山の森が淋しく鳴っています。
クリスマスを祝うという習慣は本当に美しい習慣と思います。貪欲な人間たちがよくこんな習慣を津々浦々にいたるまで行き渡るように守るようになったと不思議に思われます。やはり人性の善と愛の勝利というようなことが考えられます。
ヤソの生きていられた時には拒んだ人たちの子孫も、今は神の子としてあがめるのですね。これほど民衆化せられるところにヤソの人類的な力があると思います。「天には栄え、地には穏やか」でなくてはならないのに、ヨーロッパでは今も戦争しているのですね。陣営に屯《たむろ》している兵士たちはどんなに不幸なクリスマスを持つことでしょう。家
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