。あの時呪わないでしあわせであったと思うでしょうね」というところを書きました。私は自分でかきかき涙がでました。そしてお絹さんとも一生別れずに仲よくしようと思いました。
 私は東京に行ってみたく思います。今のうちに十分養生して来春にはぜひ上京してみなさんにお目にかかりたいと思っています。でも来年のことをいえば鬼が笑いますけれどね。今日はこれでやめます。いずれまた。寒いゆえに大切になさいませ。
[#地から2字上げ](久保正夫氏宛 十一月十一日。丹那より)

   久保正夫氏宛

 六号雑誌にのせてあるあなたの論文を気をつけて読みました。
 あなたのものにはいつも内面的な、冷たい情熱がこもっていて強い感じがします。あなたはたしかにストリンドベルヒの性格と似たところがありますね。それは時として、はげしさが内攻して文章の上に反映するために一種の冷酷(言葉が不適当ですが、あなたは私の意味をとって下さると信じています)な強さを表わします。しかも一つの愛と不幸の意識から流れを汲んでいます。魂の強さが読むものに迫ります。ベートーヴェンが江馬さんには涙を、あなたには、頭と胸の痛みを価したというのはつよく私
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