たの特色を発揮せられることをせつに希望します。六号雑誌に出るあなたのエッセイはぜひ拝見したく思います。私はあなたのヤコボネの評伝を読んで、あなたは評伝としても、中沢氏や廚川氏らよりはるかに深い、人間の心のなかの歩みを伝える才能を持った記者であると思いました。しかしあなたの真の仕事は創作にあるのはいうまでもありますまい。私はあなたが力を芸術に注がれることを望みます。
 私は生命の川の十一月号から「出家とその弟子」という五幕の脚本を連載します。私の処女作ですから読んで下さい。私のは一種のセンチメンタリズムです。いわば存在的感傷主義とでもいうようなものです。「愛と知恵との言葉」はできるだけ哲学を用いずに、心から心に語りたいと心がけて書いているのです。文章のスタイルなどもあれで気にしてあるのです。私はエピクテタスやトマス・ア・ケンピスなどのように天の感じを文章の味に泌み出させようと努めました。しかしセレスチアルな感じは今の私ではどうしても出て来ません。争われぬものだと思います。徳を積むほかはありません。江馬さんの「受難者」は読みました。私とリズムの合いそうな人のように思いました。
 私はこの漁
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