用事の手伝いなどして、謙さんのもてなしができなかったこともあり、そのようにして謙さんを七条に送った時には、すまないとばかり思っていましたのに、東京からの謙さんのお手紙を見れば、私の想像しないような、感謝の情にみちているので、もったいないように感じました。ことに天香さんは謙さんに深い強い印象を与えたらしく、内山君の手紙とともに昨日天香さんは私に謙さんの手紙や歌を見せて悦び、たのもしく思ってかつ感謝して栄えを神様に帰していられました。近々上京せられる時には謙さんや内山君にも会って話したいといっていられました。
 この前のあなたのお手紙にあらわれていたあなたの心の態度もうなずかれます。あなたは今は天香さんにお会いなさらなくてもよろしかろうと思われます。もっと先で機縁の熟した時に、会いたい気の起こった時にお会いなされませ。
 私たちを徳へと駆る原動の力は、私たちの心の内に働く、罪や、刑罰や、羞恥《しゅうち》や、後悔や、すべて道徳的の苦痛の感じ――それは享楽と観照のできない直接な意識――です。そのほかにいかほど博く知ったり集めたり研《きわ》めたりしても、推進する力にはならないと思います。
 あな
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