た。そして本田さんには長門の秋吉村の本間氏の大理石切場に行くように、また文之助君には京都在の西田天香という僧のところに行くように手紙にも書きましたほどです。しかしやはり私は躊躇《ちゅうちょ》しています。私の十字架は家に止まるほうにあるのではないかと考えます。私は私の家にいて、しかも私があなたや謙さんにするように私の両親を愛すべきでしょうか。けれどそれがなかなか困難なのです。私は依然として孝行ができません。家を出ればかえって孝行になれるのですけれど、私は家庭というもののなかには、とても安住できない人間のように思われます。私の両親ほど子に甘い親はありません。しかし私は親に対する不満と悲哀とをますます深くいたします。私はやはり出家の心、すべてのものを隣人として神の愛で愛したいねがいが強いのです。おそらくは将来はそのようになるようになるでしょう。そして親にもやさしい子になりたいと思います。
私は今でも私にパンの保証さえあればそのようになりたいのです。パンだけは親に頼り、親のトイルの上に立って隣人となることはできないことです。といって私は病弱無能でとてもパンを得るかいしょがありません。正夫さん
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