らば、被造物としては聖なる恋といわれはしますまいか。それはフランシスが被造物として罪はあっても聖者であるように、その憧憬のなかに罪がないならば、実際に貞潔は守れずとも、神の前にひざまずいて二人が赦しを求めるときに、そのいのりのなかに二人は聖なる恋を生きるのではありますまいか。そのようにして私は私の性のねがいを自ら許したいのです。それは人間の型のなかに根を持つ、創造主の計画より出ずる純な要求と思われます。
 私は私の日々の生活のありさまなどをあなたにかくつもりだったのに、理論に流れてあまりに長き時を費やしました。今日はそれらは次の手紙に残してひとまず筆を止めます。あなたは今は煩わしい試験の最中なのですね。七月の初めにはお目にかかれることと何よりのたのしみにいたしています。呉から四時間ほど汽車で走れば三次という私の学んだ中学校のある小さな町に着きます。その町から私の故郷までは人力車があります。私はその三次まであなたを迎えに行こうと思っています。まことにつまらない田舎町《いなかまち》で、景色も美しくはありませんけれど、それでも私たちに久しぶりに会いに来て下さいまし。
 この手紙はあなたの美しい期待にそむくような荒々しいことばかり書きました。しかし私はいつも私の生活の欠けたところに注意を集めて私の生活を成長させようとするつもりもあり、また私のありのままを書くのですからそのおつもりで読んで下さいませ。
 トビアスの書というのは読んだことはまだありません。ベラダンのフランシスはも少しで終わります。私はフェヒネルのダス、レエベン、ナハ、トーデとプラトンのゲスプレヒ、ユーベル、ディ、リーベなどを今読んでいます。[#地から2字上げ](久保正夫氏宛 六月十七日。故郷庄原より)

   友来たる

 一週間のうちにお目にかかれることと何より楽しみにして待っています。広島駅で一度下車して、五、六丁ばかり東にあたる東広島駅から芸備鉄道に乗り換えて、三時間ほど川や、小山や、農家などばかり見える田舎を走ると三次《みよし》という駅(終点)に着きます。私はそのステーションのプラットホームに、あなたを待っているでしょう。そこから私の町まで五里の道を馬車で駆けると二時間あまりで私の家に着くわけになります。
 それであなたは広島から出発する時に、何時の汽車に乗るかを、ちょっとめんどうながら、三次町宗藤嚢次郎内私宛に電報を打って下さい。私は私の妹(艶子でなくて重子というのです)と二人であなたを迎えに駅に行きます。私はあなたの広島に着きなさる日には三次まで出ていたいと存じますから、あなたは、この手紙の着きしだいハガキでよろしいから、およそ何日に広島に着くかを知らせて下さい。私はあなたと三次のバンホフで会う時の光景を想像して心がおどります。私はもはやわざわざ東京から私にあいに来て下さるほど私を愛して下さるあなたに遠慮はいたしますまい。私の部屋のスナッグでないことも、また町の周囲のあらあらしさも。
 私はただあなたと相見る悦ばしさに溺れさしていただきましょう。私は先日、夕飯後いつもする妹との散歩の時に、あるいはこのような景色はかえってあなたに珍しく興味をひくかもしれないなどと語り合いました。昨年の夏のような静かな池の辺りにいないのは残念ですけれど、それもかえって私のファミリエのなかにあなたを包んだほうがあなたのような方にはよいかもしれないと存じます。私は妹と、あなたが来て下すったら、町はずれの森のなかの沼のほとりやまた一、二里はなれた山のなかの牧場などに一緒に行こうなどと楽しく相談いたしました。それからもしもあなたがこの夏は別にほかの場所で暮らす計画がなく、また東京でなくてはできないような仕事をお持ちでないならば、ずっと永く私の家にいて、そして一緒に上京したらとも思います。あなたは私の家で仕事や読書などのできるように、書物など持っていらしたらいかがですか。私の家はあなたが幾日いらっしても遠慮なような家ではありません。一緒に勉強したり散歩したりして、一と夏を過ごさるるならば、私はどのように幸福だか知れません。けれどそれはもとより無理に勧めるのではなく、あなたの都合でどうでもよろしいのですけれど、私の希望を申しておきますのです。
 あなたは歯が痛むそうですが、不愉快なことでしょう。しかし埋めてもらえば大したことはありませんでしょう。わたしも埋めてからは何のこともありません。
 私は胸のほうも痔のほうもずっとよろしいのですから、あなたが来て下さっても、心細い感を与えるような憂いはありません。安心して、永くいる気で来て下さいまし。ほんとに、遠方から、よく訪ねて来て下さいます。私の母などは、彼女たちの習慣にては、理解のできぬほど厚い友情としてどのように感謝しているかもしれません。本田
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