れから読むのがずいぶん楽しみです。あなた自身の初めての著作を心から御祝しいたします。読み終わった後でいずれ私の感想を書いて送ります。先日のお手紙にありました、私のあなたに宛てた手紙集を読みたいとおっしゃる哲学科の人には、私は少しもさしつかえありませんから見せてあげて下さい。私が仕事を初めるまでの二、三年間の努力と悩みとがあなたに宛てた手紙のなかに最もよく現われていると思っています。ひとりの友にあれだけ身を入れて手紙を書くことは、この後の私の生涯にもめったにあるまいと思われるくらいです。
私は私の、悩みの多かったけれど、それをくぐってしだいに一つの恵まれた静けさに向かって成長してきた魂の歩みの記録として、これらの手紙に対して、愛とそして泪《なみだ》をさえ感じます。何となれば悩みはその後けっして減ぜられずしてますます重く、課せられたにもかかわらず、私の心がある恵みに向かって高められて来つつあるからです。そこには私の醜さと拙なさとが痕《あと》つけられてあるとはいえ、私はそれをあまり恥ずかしいとは思いません。
私は、先月二十六日にはあなたを心待ちしていましたが、御都合でいらっしゃいませんでしたね。その後あなたはおさわりなくおそらく「親和力」の翻訳にいそしんでいられることと思います。その書物は私が心をひかれ、そしてまだ得読まずにいるものですから、あなたの忠実な翻訳によって読むことができるのを楽しみにして待っています。私は「父の心配」という現代もののドラマを書いています。毎日寝床で。仕事と読書と祈祷と音楽とで暮らしています。先日お絹さんの母が亡くなりまして、今朝納骨式に地三をつれて里へ帰りました。今日はたいへんな嵐で海が荒れています。
今晩この手紙を書く前にムーンライト・ソナタや、葬送曲をききました。不思議なことに巻頭にあるベートーヴェンの写真が君にたいへんよく似ています。私の「俊寛」を読んで下さったかしら。方々からいろいろ言ってきましたが、そのなかで長与善郎君が永久的なクラシックだといってほめてくれたのが一番私をよろこばせました。機があったら読んで下さい。お絹さんはたぶん十日ばかり留守になるだろうと思います。
それから「紡ぎ車のグレートヘン」のテキストがわかればついでの時に教えて下さればたいへんよろこびます。私は次から次へと仕事の計画に満ちています。もし私の健康さえ保
前へ
次へ
全131ページ中124ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
倉田 百三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング