とをいうのは失礼ですけれども)それでこの後は二人の友情が、平らかに続いてゆくことを予感できるような気がいたします。
 星坐表を語って下さってありがとうございました。一昨夜窓を開けて星を眺めました。月が明るいために星の位置ははっきりわかりませんでしたけれども、琴坐やペルセウスや鯨坐などと見分けることができました。Im Abendrot のテックストを送って下さってありがとうございました。あなたのひろい知識ならこの後も私の仕事に助けを与えて下さるように願いいたします。あなたの貴い学問上のお仕事に豊かな稔りのあるように祈っています。京都へは時々出る気ですからその時は寄せてもらいます。こちらへも土曜日にでも時々いらっして下さい。それから丸善へでもいらっした時に画の本でもいいのがあった時にはちょっと知らせて下さいませんか。またレコードや書物などに心当りのものが眼に触れた時にはちょっと知らせて下さい。お願いいたします。謙さんには近いうち手紙を出してあなたとの会話の話しも伝え、私との友情も回復したく思っています。私は昨日から少しずつ仕事を始めました。「俊寛」の二幕の二場を今書いています。今日も晴れた海に船が賑おうています。静かな心でこの手紙を書きます。御大切に。いずれまた。
[#地から2字上げ](十二月四日。明石より)
[#改ページ]

 大正九年(一九二〇)


   「俊寛」の完成

 しばらく御無沙汰いたしました。紀州の海岸から帰られたのですね。そのように野に山にまた海に自然の膚と気息とにたえまなくふれ、また都会の人々が自分らの生活を、楽しく、ゆたかにするためにつくり出した設備や催しのなかで自分を富まし、また緻密な学究的労作のなかに、知性を鍛え、すべて人間の持ちうるカルチュアーの機会をことごとく享受することのできるあなたを心からお祝いしたく思います。あなたがいって下さるように、私はきわめて不利な外的条件のなかで自分の仕事をつづけています。けれども今は、私の心が静かさを保つことができて、人の幸福をも自分の不幸と較べて淋しくなるようなことはなく心からよろこぶことができ、また自分の生活に失望しなくなりました。私がそうなるまでには忍耐と祈りとで心の平和を恵まれるまでの苦しい時代が必要でありました。今は自分の運命を受け取り、ゆるさるる幸福を享《う》け楽しんで死を待ちつつ仕事にいそしむ
前へ 次へ
全131ページ中122ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
倉田 百三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング