らいいのでしょう。あなたは自分の不幸な心で、なお静かな、つつむような同悲の情をおくって、よくなぐさめておあげなされました。今度お便りなさる時には、同じ病気を耐え忍んでいる私からの、ねぎらいの挨拶を伝えておいて下さい。
 また江馬さんにも私の好意を伝えておいて下さい。何事もすぐれた魂を持つものの寂しさだと思って、忍耐なさるように。
 私は「愛と知恵との言葉」のエッセイを続けたいのですが「生命の川」はお金が高くかかるのでたくさんかけないので困っています。新思潮もお金がかかるし得かきません。もっとフェボラブルな発表の場所がほしいと思っています。
 謙さんにソフォクレスを送ってもらいました。イフィゲニーやタッソーも読みましょう。詩はわかりにくくて困ります。
 今日はこれで失礼します。ではいずれまた。[#地から2字上げ](十二月十三日。丹那より)

   淋しき浜辺のクリスマス。ソフォクレスの悲劇について

 よいクリスマスをあなたに祈ります。
 東京の街《まち》はショーウィンドーのクリスマスの祝いの飾りなどで美しいことと存じます。妹とそのようなはなしをいたしました。
 ここは淋しい漁村とて、この救い主の誕生を祝う何の美しい催しもありません。人は早くから戸を鎖ざして、海から吹いて来る寒い風をふせぎ、一日の労働――この頃は全村こぞって、牡蠣《かき》を殻からこわして出す見るから冷たそうな仕事を一日じゅうしています――の休息をするために炉辺に集まっています。私たち三人も今夜は仕事を休んで、火を囲んで親しい話や無邪気な遊びをして過ごそうと思っています。庄原であなたとして遊んだ花合わせなどをして、――外は風が吹いてすぐ裏の小山の森が淋しく鳴っています。
 クリスマスを祝うという習慣は本当に美しい習慣と思います。貪欲な人間たちがよくこんな習慣を津々浦々にいたるまで行き渡るように守るようになったと不思議に思われます。やはり人性の善と愛の勝利というようなことが考えられます。
 ヤソの生きていられた時には拒んだ人たちの子孫も、今は神の子としてあがめるのですね。これほど民衆化せられるところにヤソの人類的な力があると思います。「天には栄え、地には穏やか」でなくてはならないのに、ヨーロッパでは今も戦争しているのですね。陣営に屯《たむろ》している兵士たちはどんなに不幸なクリスマスを持つことでしょう。家
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