私も入り込まねばなりません。それが実に忌まわしい事情になっているのです。私はどれほど心を傷つけられたかわかりません。しかもまだ解決できないのです。それからお絹さんの問題がまたすこぶるいやな事情になっているのです。私は人間の醜さはどれほどまでか私などの思っているようなものではないと感じました。私は知恵がありません。悪魔を見破る力がありません。そのような事情のなかに、私は来春は父にならねばならないのです。このことがまた私を非常に悩まします。私はさまざまなことを道徳的に考えるとほとんど頭が支えきれなくなりそうです。私は後悔や、憤怒や、怨恨や、自責や、そのような呪わしき感情の連鎖の内に私の拙なき運命を嘆息しています。地上の醜悪と窮乏に打たれて天を仰ぐばかりです。今のところでは私の考えは少しも具体的にまとまりません。ただ私はそれらのゴタゴタの向こうに涼しき世界を喘《あえ》ぎ求めています。その世界にいこいの場所をつくらねばならぬと感じているだけです。どうしてよいのかわかりません。私が病身でさえなければと幾度思うかしれません。すべての徹底した解決はみな私に経済的独立を必要とさせます。
しかし私にはそのかいしょがありません。私はそのために姑息になってしまいます。死ぬれば死んでもよいと覚悟すればできましょうが、私はその気になれません。からだのことが気になります。じきに病気がひどくなりそうです。それに来春からできる子供のことも気になりますので、私は父母にたよることになります。するとそこから姑息な罪悪が続出するのです。天香さんは私の一家をあげて道場にせよと勧められます。しかしそれは菩提心のない父母や家族に強いるべき性質のものではなくて、私ひとりで初めなければならぬことです。しかしこれも私の病気のためにとてもできそうにありません。
ことに私を最も深く悩ますのはお絹さんと私との関係です。私が病気になったのもほとんどその心配からです。どうも父母との間、私との間、妹との間、親戚との間がことごとくうまくゆきません。それにはさまざまな事情が各自にあるのです。だれも無理はないともいえるし、だれも悪いともいえます。私は私を責めています。私の知恵と徳の足りなかったのを悔いています。私は忍耐します。何も許します。私の過失の結果をにないます。
そのようなしだいで私は祝福されていません。苦しんでいます。ま
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