手紙にはたいへん心配してよこしました。明日は私の心を乱して無沙汰した詫びをして永い手紙を出しましょう。私は秋からはカソリックの神学校のようなところに身を置きたく思うのですが、僧侶《そうりょ》としてのマナーや、儀式や古いキリスト教の教育を授けてくれるところはありますまいか。ついでの時にしらべて下さいませ、またお手紙出します。今日はこれで筆とめます。幸福にお暮らしなさいませ、また弱い私のために祈って下さいませ。[#地から2字上げ](久保正夫氏宛 八月二十一日。庄原より)
「愛と認識との出発」の準備
この頃は静かな読書や、たのしい訪問などして、おちついて暮らしていらっしゃいます由、安心いたします。東京へ参る日も近づきました。そしてその日を十月一日と心に定めながら、私のたびたびの不幸から生じて来た不安な心持ちから、私はそのときにはまた何かそれをさまたげるような出来事が起こりはしまいかと気になります。どうかそのような事のないように祈ります。艶子は九日の朝庄原を出立いたします。別府で親しくなったひとりの娘さんと尾道で乗りあわして東京まで一緒に行くことになりまして、好い都合でございます。私は二十日ほどおくれて参ります。私は、少し都合があって妹とは別れて住みます。妹は寮舎に、私はどこか郊外に下宿でもいたしましょう。まことにごめんどうですが、どこか心あたりのところを探しておいて下さいませんか、けれどそれはついでの時でよろしいのです。また見あたらなければ見あたらなくてもいいです。散歩の時にでも少し気をつけておいて下さい。
私はあなたや、謙さんと互いに慈みつつ、近くに、暮らすことのできるようになることをしあわせに思います。幾度も申しましたごとく、私は乱れやすく、常にものごとがなやましく、あなたやことには謙さんと同じような気分のなかにいられない時が、おそらくはしばしばあることと存じます。そのような時には、気まずさを忍んで下さい。そしてお互いの自由とわがままとを認め合いましょう。それでなくては、おのおのの成長がのびのびせず、また特色があらわれないと思います。あなたのいいたいこと、したいことは何でも私には遠慮せずに、自由にして下さい、このことは謙さんにもいっておきます。私たちは親しくなるに従って、refuse することの自由ができねばなりません。そして自分を守りつつ、仲善くいたし
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