はこのたび宰相《さいしょう》の少将に昇《のぼ》られるといううわさでございます。平氏に刃向《はむ》かうことなどは思いもよらぬように見受けられます。
俊寛 父を清盛《きよもり》に殺された成経が! 康頼はどうしている。
有王 康頼殿は東山双林寺《ひがしやまそうりんじ》の山荘にこもって風流に身をやつしていられます。鬼界《きかい》が島での生活を材料にして宝物集《ほうぶつしゅう》という物語を世に出されるといううわさでございます。
俊寛 犬だ! 鼠《ねずみ》だ! わしは最後まで勇士として立つぞ。自分を売らぬぞ。有王船を用意しろ、船を!
有王 お心を静かに!
俊寛 ただ一矢《ひとや》を! わしの腕《うで》にまだ力があるうちに!
有王 船は急にはありませぬ、私がこの島に来ることができたのも不思議なほどでございます。赤間《あかま》の関で役人に捕《とら》えられすでに危《あやう》きところをのがれ、船頭《せんどう》をだましてようやくこの島に着くことができました。
俊寛 九州まで! いかなる手段をつくしても! 九州まで着けば身を忍《しの》ばして都に入り、時機をうかがうことができる。
有王 たとえ九州まで帰り着いて
前へ 次へ
全108ページ中92ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
倉田 百三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング