の情を起こさせた。同悲《どうひ》の情をわきたたせた。わしは涙がこぼれた。わしはこのさびしき友をなぐさめるためだけにでも、生きていたいと思って、走りだした。
康頼 (涙ぐむ)わしはあなたの姿に気がついた時ふるえた。わしはあなたの心をすぐ知った。今あなたがいかなる危険な状態にいるかを直覚した。そしてあなたを抱《だ》きとめに走ろうとする刹那《せつな》、わしはあなたが両手を広げて涙をいっぱい目にためて、わしのほうに走ってくるのを見た。
成経 わしらは抱き合って泣いたのだ。
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間。
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俊寛 わしはさびしい気がしてならない。昨夜《ゆうべ》から変に心細い気がしてならない。こんな気のすることはこの島に来てからはじめてだ。不幸が近づいてくるような……
成経 白帆《しらほ》だ! (急に元気づく)あの姿《すがた》がどんなに希望をわしに与えてくれることか。
康頼 (沖《おき》を眺める)この島に来るのなら! (考える)来るかもしれないぞ。わしは昨夜から不思議に胸騒《むなさわ》ぎがしていたのだ。何か大きな幸福が来るような……
俊寛 (顔
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