ていよう。檻《おり》につないだ二頭の獣《けもの》の間に食物を投じればどうなるかということを! それとあなたがたとどこが違うのか。あゝ、わしが今見たことは恐ろしいことだ。(泣く)
成経 (涙ぐむ)康頼殿。あまりに心を痛めないでください。わしは優《やさ》しいあなたの心を傷《きず》つけたのを悔《く》いる。あなたはどんなにいい友だったろう。わしの寂寞《せきばく》はいつもあなたの平和な、あたたかい友情でなぐさめられているのだ。わしの今したことをあなたに恥じる。(康頼の肩に手をおく)わしはもはや決してあなたの目に荒々しいふるまいは見せまい。このやさしいあなたの心の平和を保つだけにでも! 許してください。
俊寛 わしをきらってくれ、きらってくれ。わしはそれに相当している。わしは荒々しい人間だ。わしは平和を恵まれない人間だ。どうぞわしを捨ててくれ。憎《にく》んでくれ。あなたがたは仲よく慰《なぐさ》め合って暮らしてくれ。わしはそれを望む。わしはそれをねたんではならない。(慟哭《どうこく》す)
康頼 (俊寛を抱《だ》く)俊寛殿。わしはあなたを悪い人とは思いません。あなたは憎《にく》むべき人ではない。むしろ
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