りつつ成経を追うて登場)待て。あなたはまちがえている。もしあなたの獲物《えもの》なら、わしはあえて取ろうとは思わない。(小鳥の死骸《しがい》を投げつける)
成経 (康頼に)わしは驚いた。わしはあきれた。
俊寛 (康頼に)わしは無理にわしの獲物だというのではないのだ。
康頼 (悲しげに)あなたがたは獲物の争いまでしだしたのか。
成経 わしがたしかに射落《いお》とした鳥を横取りしようとするのだ。わしの矢が立っているのに!
俊寛 わしはわしが射落としたと思ったのだ。たとえわしが射落としたにせよ、わしがこんなに飢《う》えていなかったら、成経殿に譲《ゆず》っただろう。たかが小鳥一羽ぐらい!
成経 わしは他人の惜《お》しみのかかった獲物をほしいとは思わない。(俊寛の前に小鳥をたたきつける)持ってゆけ!
俊寛 持ってゆけ! (弓ではね飛ばす)
成経 わしはいらない。呪《のろ》われでもしたらたいへんだ。
俊寛 (あざけるごとく)あなたの父ではあるまいし。
成経 (火のごとく怒る)もう一度言ってみよ。墓場に眠っている父を侮辱《ぶじょく》されるのが子にとってどんなものだか! (弓を取って詰め寄せる)
俊寛
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