《かなえ》のまわりをまわりました。まるで夢中で、つかれたもののように、しつこくしつこく繰《く》り返して。
成経 父はむろんその場にいなかったのでしょうね。ただ命じてやらせたのでしょうね。
俊寛 いや。成親殿《なりちかどの》は夜陰《やいん》にまぎれて毎夜賀茂の森まで通いました。大杉の洞《ほら》の下の壇の前にぴたりとすわっていました。顔はまっさおでしかも燃えるような目で僧らの所業《しょぎょう》を見ていました。
成経 わしの知らぬ間《ま》にそんな恐ろしいことが人知れずなされたとは!
俊寛 それを秘密にするために彼は恐ろしいことをしました。わしはそれを一生懸命とめたのだが。※[#「咤−宀」、第3水準1−14−85]幾爾《だきに》の密法は容易ならざる呪詛《じゅそ》であって、もし神々がそれを受けない時には還着於本人《げんちゃくおほんにん》と言って詛《のろ》ったものに呪詛がかえるのだからといって。
康頼 あゝ、よしてください。この上もはや成経殿を――
成経 言ってください。早く言ってください。
俊寛 満願《まんがん》の夜成親殿は秘密の露顕《ろけん》することを恐れて七人の僧侶を殺して、その死骸《しがい
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