《ひさん》な境遇に陥《おちい》らしめ、そして王法の敵にかかる栄《さか》えをあたうるごとき不合理な神々の前に、乞食《こじき》のごとくに伏してあわれみを求めることが!
康頼 神々は正しく照覧《しょうらん》していられます。耐《た》えしのんで祈ってあきなかったらいつかはわれわれの日がきっと来るでしょう。
俊寛 あなたはほんとうにそう信じるのですか。
康頼 信じています。
俊寛 ほんとうですか。
康頼 ほんとうに信じています。
俊寛 (康頼の顔を見る)うそではありますまいね。
康頼 (顔をそむける)うそではありません。
俊寛 どうぞきょうばかりはほんとうにいってください。わしは一生懸命なのですから。わしを慰《なぐさ》めようと思って偽《いつわ》りの証《あかし》をたてないでください。わしはきょうも熊野権現《くまのごんげん》に日参《にっさん》して祈りました。しかしだめです。わしはほんとうに信じていないのですから。祈りの心はすぐにかれます。わしは宮の周囲にはえた不格好《ぶかっこう》な樹立《こだち》と、そしてちょろちょろと落ちる谷水を見ていると、何とも言えない欠乏の感じにうたれました。その感じは祈りとか望
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