いのです。その欠乏と恥辱との報知だけはしきりに聞こえるけれども。(間。顔色が悪くなる)ついにわしは父が殺されたといううわさを聞きました。しかしその真否《しんぴ》を確かめることができないうちに、この鬼界《きかい》が島に移されてしまった。
康頼 それはきっと虚報《きょほう》でしょう。重盛《しげもり》が生きている限りはよもや成親殿《なりちかどの》を殺させはしますまい。自分の愛する妻の兄を! たとえ清盛《きよもり》が何と言いはっても。
成経 (頭を振る)いや虚報ではありますまい。虚報にしては、あまりに細部《さいぶ》にわたった報知だったから。清盛は父をひどく憎《にく》んでいました。彼は自分の憎悪《ぞうお》を復讐《ふくしゅう》せずに制することのできるようなやつではありません。西光《さいこう》殿をあらゆる残酷《ざんこく》な拷問《ごうもん》によって白状させたあとで、その口を引きさいて首をかけたほどの清盛です。あゝ彼らは父を殺すのにどんな恥ずべき手段を用いたことか!
康頼 重盛に秘して、暗夜《あんや》に刺客《しかく》を忍《しの》び込ませましたか。
成経 彼らは鼠《ねずみ》をたおすに用いる毒薬を食に盛って
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