に飛び出て馬車に乗った。彼らが妻を侮辱《ぶじょく》することを恐れたから。
康頼 北《きた》の方《かた》はどうされました。
成経 母は父の安否《あんぴ》ばかり心配して泣いていました。そしてなぜわしがかかる恐ろしいことを企《くわだ》てたかをかきくどきました。父はその朝院に出仕《しゅっし》する途中を捕《とら》えられたのです。
康頼 あゝ。成親殿《なりちかどの》はどうされたやら。
成経 父のことを思うのはわしの地獄《じごく》です。清盛《きよもり》は謀叛《むほん》の巨魁《きょかい》として父をもっとも憎《にく》んでいました。清盛が父を捕えていかに復讐《ふくしゅう》的に侮辱したか。わしはそれを聞いた時むしろ死を欲しました。わしは馬車の中で警固《けいご》の武士らに父の安否をききました。彼らは詳しく詳しく語りました。不必要な微細なことまで。わしをはずかしめるために。清盛は西八条の邸《やしき》で父を地べたにけり落としたそうです。その時父が冠《かんむり》をたたき落とされて、あわてて拾おうとしたことまで彼らは語りました。その時清盛がまたけったので父は鼻柱《はなばしら》が砕《くだ》けて黒血がたれた。その時清盛は
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