ることを忠実に遂行《すいこう》することを上役から命じられたにすぎない。
俊寛 われわれ三人は同じ罪によって、同じ日にこの島に流されたものだ。二人だけを都へ帰して、一人だけを残すというのは法にかなわない処置ではありませんか。
基康 あなたの訴えは正しいかもしれない。しかしそれはこの命令を発した人に向かって言われるべきだろう。
俊寛 清盛はなぜ特別にわしを憎《にく》むのだ。わしから二人の伴侶《はんりょ》を無慈悲《むじひ》に奪《うば》い去ろうとするのだ。
基康 それはわしからききたいくらいだ。
俊寛 刑には理由がなければならない。その理由を示さずに、ただわしだけに重い刑罰を課するのは非法ではないか。
基康 あなたの申し立ては道理でもあろう。しかしわしはそれを裁《さば》く権利を持っていないのだ。
俊寛 あなたは悪い人ではないようだ。わしはあなたに乞《こ》う。わしを都《みやこ》へ連れて帰ってください。
基康 わしはあなたに何の憎《にく》みもない。わしはお気の毒に思う。もしわしにとがめがかからないものなら、わしは連れて帰ってあげてもいいのだが。
俊寛 もしあなたがそうしてくれたら、わしは十倍にしてきっとあなたに報《むく》います。
基康 (考える)どうもわしの身に難儀《なんぎ》がかかりそうだ。
俊寛 もしあなたにとがめがかかったら、わしが立派に申し開きをしよう。その責任はわしがきっとになう。だがそんなことはきっとない。主人の意志は三人を都へ帰すにあるのはわかりきったことなのだから。
基康 その点もあなたが言うほどわしにははっきりしていないのだ。少なくとも赦文《しゃもん》の意味を文字どおりに行使《こうし》するのが最も賢《かしこ》いことがわしにはっきりしているほどには。
俊寛 しかし一度都へ帰ってから、またはるばるこの島まで迎えに来なくてはならないとしたら。
基康 (ある感動をもって)あなたがそういうのはもっともだ。わしは長い船旅《ふなたび》には実際弱ってしまった。都を出てから想像もつかないほどの長い日数がかかっている。それに都を去るにつれてだんだん航路が荒くなった。その上九州の本土を離れてからは何という退屈だったろう。都《みやこ》にかえってから、も一度この島に来るというようなことはとても耐《た》えられないことだ。(考える)だがわしは長い間の役目の経験で知っている。一番安全に役目を果
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