すのでも、縁なくば許される事ではありませんね。
僧三 一つの逢瀬《おうせ》でも、一つの別れでもなかなかつくろうとしてつくれるものではありませんね。人の世のかなしさ、うれしさは深い宿世《すくせ》の約束事でございます。
唯円 私は縁という事を考えると涙ぐまれるここちがします。この世で敵《かたき》どうしに生まれて傷つけ合っているものでも、縁という事に気がつけば互いに許す気になるだろうと思います。「ああ私たちはなんという悪縁なのでしょう」こう言って涙をこぼして二人は手を握る事はできないものでしょうか。
親鸞 互いに気に入らぬ夫婦でも縁あらば一生別れる事はできないのだ。墓場にはいった時は何もかもわかるだろう。そして別れずに一生添い遂げた事を互いに喜ぶだろう。
唯円 愛してよかった。許してよかった。あの時に呪《のろ》わないでしあわせだった、と思うでしょうよね。
僧三 人は皆仲よく暮らすことですね。
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一同しんみり沈黙。
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同行一 (ひざをすすめる)実は私たちが十余か国の境を越えてはるばる京へ参りましたのは往
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