し》しました。そして私はその悪からのがれる希望を失いました。私は所詮《しょせん》地獄行きと決定《けつじょう》しました。
左衛門 私はこわくなります。あなたのお話を聞いていると、地獄が無いなどとは思われなくなります。魂の底の鋭い、根深い力が私に迫ってまいります。私は地獄はないかもしれないと、運命に甘えておりました。きょうもせがれに地獄極楽はほんとうにあるのかときかれて私はうそだ、つくり話だと言いましたけれど、自信はありませんでした。地獄だけはあるかもしれないと冗談を言って笑いましたけれどほんとにそうかもしれないという気がして変に不安な気がしました。あなたに会って話していると、私は甘える心を失います。魂の深い知恵が呼びさまされます。そして地獄の恐ろしさが身に迫ります。
お兼 ゆうべの夢の話と言い、私はなんだか気味の悪いここちがするわ。
左衛門 (外をあらしの音が過ぎる)その地獄から免れる道はありませぬか。
親鸞 善《よ》くならなくては極楽に行けないのならもう望みはありません。しかし私は悪くても、別な法則で極楽参りがさせていただけると信じているのです。それは愛です。赦《ゆる》しです。善、悪を
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