いものはとこしえに生きるのじゃ。「死ぬる者」とは「罪ある者」と同じことじゃ。
人間 では人間は皆罪人だとおっしゃるのでございますか。
顔蔽いせる者 皆悪人じゃ。罪の価は死じゃ。(消ゆ)
人間 今のは彼れだな。それに違いない。いったいあれは幻だろうか実在だろうか。わしは初めは無論幻だと思っていた。けれどだんだんそうは思われなくなりだした、だってあの恐ろしい破壊力は、あまりはっきりしているもの。実在だとしていったいあれは何者だろう。私はあれの正体が見たい。それを知りさえしたらこわくはない。私はあの恐ろしい火と水との正体を知ってからは、彼ら自身の法則でかえって彼らを使役して私の粉《こな》ひき場の車をまわさせたり竈《かまど》をたかせたりしている、わしは彼の法則を知りたい。彼の本体をつかみたい。でなくてはわしの生活はいつも脅かされるから。あれを知るようになったのは私の不幸だ。しかし私の知恵の成長でもある。あゝ恐ろしい彼よ!
顔蔽いせる者 (あらわる)お前はまたわしを呼んだな。
人間 私はあなたの顔が見たい。
顔蔽いせる者 ゆるされぬ。
人間 どうあっても。
顔蔽いせる者 その欲望はお前の分に過ぎ
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