はなかろうかと。……あゝあなたは私の心を見抜きましたな。ほんとうは私も死ぬのだろうと思っているのです。私の祖先の知恵ある長老たちも昔から自分らのことをモータルと呼んでいますから。
顔蔽いせる者 それはほんとうじゃ。禽獣《きんじゅう》草木魚介の族と同じく死ぬるものじゃ。
人間 あなたはどなたでございますか。その威力ある言葉を出すあなたは?
顔蔽いせる者 わしは死なざるものに仕える臣じゃ。お前はわしを知らぬかの。
人間 知っているような気もするのですが、……いゝえ、やはり知りません。
顔蔽いせる者 お前はたびたびわしの名を呼ぶようじゃ。ことにこのごろはあまりたびたびなので煩《わずら》わしいほどじゃ。
人間 ではもしやあなたは? おそれながらお顔蔽いをとって一度だけどうぞお顔をお見せくださいませ。
顔蔽いせる者 わしはモータルには顔を見せぬものじゃ。死ぬるものには。
人間 それはなぜでございます。
顔蔽いせる者 モータルを見るとわしは恥ずかしくて死ぬるからじゃ。
人間 死ぬる者という言葉には軽蔑《けいべつ》の意味が含まっているように聞こえます。
顔蔽いせる者 死ぬのは罪があるからじゃ。罪のな
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