げ]
唯円 私はきょうはこれでお暇《いとま》申します。
善鸞 そうですか。きょうはうれしい気がしました。私はもっと話したいのですけれども。
唯円 私もいつまでもいたいのですが、お師匠様に内緒で来たのですから。
善鸞 私のために苦しい思いをさせますね。許してください。きょうはいろいろと考えさせられました。ありがたい気がいたします。
唯円 私はこんなに充実して話した事はありません。きっとまた参りますからね。
善鸞 できるだけたびたび来てください。私はいつもさびしいのです。
唯円 では失礼いたします。(立ち上がり、入り口のそばまで行き振り返り、力を入れて)もしおとう様が会うとおっしゃればどうなされます。
善鸞 (考えて、きっぱりと)私は喜んで会う気です。
唯円 ではさようなら。
善鸞 (見送る)さようなら。
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唯円退場。善鸞しばらく立ったまま動かずにいる。やがて部屋《へや》の中をあちこち歩く。それから柱に背をあてて立ったままじっと考えている。
浅香絹張りの行灯《あんどん》を持ちて登場。入り口に立ちながら善鸞を見る。善鸞浅香に気がつかずにじっとしている。
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