と聞いています。
善鸞 あゝ私は素直なまともな心を回復したい。
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両人沈黙して考えている。
[#ここで字下げ終わり]
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唯円 あなたはお父上に会いたくはありませんか。
善鸞 会いたくても会えないのです。
唯円 私がお師匠様に頼んでみましょうか。
善鸞 ありがとうございますが、ほっておいでください。とても会ってはくれませんから。
唯円 でもお師匠様も心ではあなたに会いたくっていらっしゃるのです。父と子とがどちらも会いたがっている。それが会えなくてはうそだと思います。それを妨げる力はなんでしょう。私はその力をこわしたい。私はたまらない気がします。
善鸞 その力は私の恋を破った力と同じ力です。その力はなかなか強いものなのです。私はその力を呪《のろ》います。しかしそれをこわす力がありません。
唯円 それは社会意志です。世の中のかたくなな無数の人々の意志です。その力は私のお寺の中をも支配しています。私はこのあいだその力に触れました。あゝどうして世の人はもっと情けを知らぬのでしょう。おのれの硬《かた》い心が他人を苦しめていることに気
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