な、卑しい、不自然な事をしていますからね。とても罰なくしてゆるされるような身ではありません。それは虫がよすぎます。私は卑しくても、このようなきたない罪を犯しながらそのまま助けてくれと願うほどあつかましくはなっていないのです。それがせめてもの良心です。私の誇りです。私はむしろ、かくかくの難行苦行をすれば助けてやると言ってほしいのです。どんな苦しい目でもいいと思います。それがかなわぬならば、私は罰を受けます。そのほうが本望です。
唯円 あなたのお話を聞いていると私はせつなくなります。あなたは私などの知らない深い苦しみを持っていらっしゃいます。あなたの言葉には尊い良心が波打っています。私はむしろ尊い説教でも聞いているような気がいたします。
善鸞 いいえ。私は一人の悪魔としてあなたの前に立っているのです。私は滅ぶる運命を負わされているのです。信ずる事のできない呪《のろ》われた魂をあわれんでください。
唯円 あなたは仏の子だと私は信じます。私はあなたと対していて悪魔らしい印象を少しも受ける事ができませんもの。善鸞様、私の申す事を聞いてください。私は何もあなたに申し上げるような知恵はありませんけれ
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