れん》殿もついにお立腹あそばして、唯円殿と一つお寺にいることはできぬとおっしゃいました。
僧一 私は唯円殿と同じお寺にいる恥辱に堪える事はできません。私が出るか、唯円殿が出るか、どちらかです。私はお師匠様に裁いていただこうと存じてここに参りました。
親鸞 (黙って考えている)
僧二 御老体の永蓮《ようれん》殿が長らく住みなれたこのお寺をお出あそばすことはできません。
僧三 今あなたに去られては若いお弟子《でし》たちをだれが取り締まるのでしょう。かつは功績厚きあなたさま――
僧一 いいえ。私はこのままではもう寺にいても若いお弟子たちを取り締まる力はありません。
僧二 いいえ。あなたに出てもらっては困ります。(親鸞に)お師匠様永蓮殿はあのように申されます。この上はあなたの御裁決を仰ぐほかはございません。
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三人の僧親鸞を注視す。
[#ここで字下げ終わり]
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親鸞 私が悪いのだよ。(間)私にはっきりわかって、そして恐れずに言うことができるのはただこれだけだ。ほかの事は私には是非の判断がはっきりとつかないのだ。ちょっとわかっているようでも、深く考えるとわからなくなってしまう。唯円の罪を裁く自信が私にはない。悪いようにも思うけれど無理は無いようにも思われてな。(考え考え語る)このようなことになったにも、私に深い、かくれた責任がある。私はさっきから、お前たちが唯円を非難するのを聞きながら、私の罪を責められるような気がした。だいち男と女の関係についての考えからが、私に断乎《だんこ》たる定見がないのだ。昨年の秋だったがね。唯円が私に恋の事をしきりにきいていた。恋をしてもいいかなどと言ってね。私はいいとも悪いとも言わない、しかしもし恋するならまじめに一すじにやれと言っておいた。私は唯円のさびしそうにしているのを見て、私の青年時代の心持ちから推察して、たいていその心持ちがわかるような気がした。これはとても恋いをせずにはおさまるまいと思われたのでな。そのとき私は恋は罪にからまったものだとは言った。しかしさびしく飢えている唯円の心になんのそれが強く響こう。唯円は自分のあくがれに油をそそがれたような気がしたに相違ない。さびしさはますます強くなって行く、そこへ善鸞が花やかな光景を見せつける。向こうから誘い寄せる美しい女の情熱があ
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