円殿の身持ちはだんだん悪くなるばかりのようでございます。
僧二 日に日にわがままがつのります。なんとか言っては外出《そとで》いたします。そしておそくまで帰りませんのでお勤めなども怠りがちでございます。
僧三 いつもため息をついたり、泣きはらしたような目をして控えの間などに出たり、庫裏《くり》で考え込んだりしているものですから、ほかの弟子衆の目にもあまるらしいかして、ずいぶんやかましく申しています。
僧一 唯円殿が木屋町あたりのお茶屋の裏手をうろうろしていたのを見たものがありまして、私のところに告げて来ました。取りみだして、うろたえた、浅ましい姿をしていましたそうです。お銭《あし》無しのかくれ遊びなのでお茶屋でもおこっているそうです。私はもう若いお弟子たちをしずめることができなくなりました。
僧二 相手は松《まつ》の家《や》というお茶屋のかえでとかいうまだ十七の小さい遊女だそうですがね。昨年の秋かららしいのです。善鸞様|御上洛《ごじょうらく》の際唯円殿がたびたびひそかに会いに行ったらしいのです。その時知り合ったものと見えます。なにしろ困ったことでございます。
僧三 きょうもお勤めが済んでから晩《おそ》く帰りました。私たちが本堂に行ったら、仏壇の前にうつぶして泣いていました。顔は青ざめ、目は釣《つ》り上がって、ただならぬさまに見えました。私たちはいつまでも、ほっておいては、唯円殿の身のためでないと存じましたので、ねんごろに意見いたしました。
僧一 寺のため、法のためを説いて、くれぐれも諭《さと》し聞かせました。けれど耳にはいらぬようでございます。
僧二 自分のしている事をあまり悪いとは思っていないように見えます。自分でそう申しました。
僧三 なんという事でしょう。その遊女と夫婦約束をしたというのです。そして私たちの目の前でその女をほめたてました。
僧一 私はねんごろにものの理と非を説き、法のために、その遊女を思いきるように頼みました。けれどあくまで思い切る気は無いと言い切りました。
僧二 おしまいには法と恋とどちらもできなくてはうそだと言い出しました。もう我れを忘れて狂気のようになっていました。
僧三 私たちの意見を聞きいれぬのみか、反対に私たちに向かって、説教しょうとする勢いでした。
僧二 なにしろ驚きました。あきれて、浅ましくさえなりました。さすが忍耐深い永蓮《よう
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