なたと一つお寺にいることはできません。私が出るか、あなたが出るか、お師匠様に決めていただきます。
唯円 それはあまりです。まあお待ちくださいまし。
僧一 私は申すだけのことは申しました。(衣を払う)もうほかにいたし方がございません。
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僧三人退場。
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唯円 (あとを見送り茫然《ぼうぜん》とする。ため息をつく)私はどうすればいいのだろう。恋はこのようにつらいものとは思わなかった。ほとんど絶え間のないこの心配、そしてたましいは荷を負わされたように重たい気がする。(間)けれどその奥からわいて来る深いよろこび! おののくような、泣きたいような――死にたいようなうれしさ! (狂熱的に)かえでさん、かえでさん、かえでさん。(自分の声に驚いたようにあたりを見回す。考えがちになる)けれど私は間違ってるのだろうか。見えない力に捕えられているのではあるまいか。(仏壇のほうを見る)あのとぼとぼする蝋燭《ろうそく》の火が私の心に何かささやくような。あの慈悲深そうなおん顔。さぞ私があわれにみじめに見えることだろう。私は何もわかりません。今していることがいいのやら、悪いのやら、行く先々どうなることやら、思えば私はこれまで人を裁くことがどんなにきびしかったろう。こんなに弱いみじめな自分とも知らないで。さっきはあんなに強くいったけれど。私はなんだか、何もかも許されない人間のような気がする。お慈悲深いほとけ様、(手を合わせる)どうぞ私をゆるしてくださいませ。
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[#地から4字上げ]――黒幕――

      第二場

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親鸞聖人居間
舞台 第三幕、第二場に同じ
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人物 親鸞《しんらん》 唯円《ゆいえん》 僧三人
時  同じ日の夜

僧三人、親鸞と語りいる。
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親鸞 私もうすうす気はついていたのだ。けれど黙って見ていたのだよ。このようなことはあまりはたでかれこれ騒ぐのはよくないからな。
僧一 私たちもそう思ってきょうまで見のがして来ました。そして若いお弟子衆《でししゅう》の騒ぐのをおさえていました。そのうちには、唯円殿も自分の所業を反省するのであろうと考えましたので、けれど唯
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