わないようにくれぐれもいましめたい。結婚後の恋愛は蜜月や、スイートホームの時期をへて、次第に、真面目な地についた人生の営みのなかにはいってゆく。こうして夫婦愛が恋愛の健全な推移としてあらわれてくる。それは恋愛の冷却というべきものではなくして、自然の飽和と見るべきものだ。少なくともそれはニイチェのいうような、一層高いものに、転生[#「転生」に傍点]するための恋愛の没落[#「没落」に傍点]なのだ。そこには恋愛のような甘く酔わせるものはないが、もっと深いかみしめらるべき、しみじみとした慈味があるのだ。円満な、理想的な夫婦は増鏡にたとえ、松の緑にたとえ、琴の音にたとえたいような尊い諧和なのだ。子どものある、落ち着いた夫婦は実に安泰な美しいものだ。子どもがないなら、共同の仕事、道、理想をもって、子どもと見るがいい。またこの時期の妻らしき、母らしき夫人は女性美の最も豊かな、円熟した感じのあるものだ。この時期に達してからの夫以外の男性との恋愛は、女性にとっては、そのたましいの品性と平和とを傷つける地上の最も醜き、呪うべきものである。この意味でニイチェのいわゆる一回性《アインマールハイト》の法則は、さ
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