る態度をあまりに依属的たらしめず、自己の生と、目と、要請とを抱きつつ、書を読む習慣を養わなければならないのである。
他人の生と労作との成果をただ受容してすまそうとするのは怠惰な態度である。というのは生と労作は危険を賭し、血肉を削ってしかなされないものであって、一冊のすぐれた著書を世に贈り得ることは容易ではないからである。
過度の書物依頼主義にむしばまれる時は創造的本能をにぶくし、判断力や批判力がラディカルでなくなり、すべての事態にイニシアチブをとって反応する主我的指導性が萎《な》えて行く傾向がある。
知識の真の源泉は生そのものの直接の体験と観察から生まれるものであることを忘れてはならない。「直接にそしてラディカルに」このモットーを青年時代から胸間に掲げていなくてはならぬ。
けれどもいうまでもなく個人がすべてを実地に体験し得るものでもなく、前にいった人間共生と共働の原理により、他人の体験と研究の遺産と寄与とを受けて、自らを富ますことは賢明であり、必要であり、謙遜でもある。
この意味においては、書物とは見ざるを見、味わわざるを味わい、研めざるを知得するためにあるものである。それど
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