ら後からと通りに続き、法華経をほめる歓呼の声は天地にとよもして、世にもさかんな光景を呈するのである。フランスのある有名な詩人がこの御会式の大群衆を見て絶賛した。それは見知らぬ大衆が法によっておのずと統一されて、秩序を失わず、霊の勝利と生気との気魄がみなぎりあふれているからである。
 日蓮の張り切った精神と、高揚した宗教的熱情とは、その雰囲気をおのずと保って、六百五十年後の今日まで伝統しているのだ。
 彼はあくまでも高邁の精神をまもった予言者であり、仏子にして同時に国士であった。法の建てなおし、国の建てなおしが彼の一生の念願であった。同時代への燃えるような愛にうながされて、世のため、祖国のため憂い、叫び、論じ、闘った。彼は父母と、師長と、国土への恩愛を通して、活ける民族的、運命的共同体くに[#「くに」に傍点]への自覚と、感謝と、護持の念にみちみちていた。彼はその活きたくに[#「くに」に傍点]への愛護の本能によって、大蒙古の侵逼を直覚し、この厄難から、祖国を守らんがために、身の危険を忘れて、時の政権の把持者を警諫した。彼は国本を正しくすることによって、世を済い、人間の精神を建てなおすことに
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