ているとはいえない。ある時代には人性のある点は却って閑却され、それがさらに後にいたって、復活してくることは珍しくない。そしてその復活は元のままのくりかえしではなく必ず新しく止揚されて、現段階に再登場しているのだ。その二千五百年間の人間の倫理思想の発展と推移とを痕づけることは興味津々たるものである。
 倫理学史にはフリードリッヒ・ヨードルの『倫理学史』、ヘンリイ・シヂウィックの『倫理学史の輪郭』、ニコライ・ハルトマンの『独逸観念論史』等がある。邦文には吉田博士の『倫理学史』、三浦藤作の『輓近倫理学説研究』等があるが、現代の倫理学、特に現象学派の倫理学の評述にくわしいものとしては高橋敬視の『西洋倫理学史』などがいいであろう。しかしある人の倫理学はその人の一般哲学根拠の上に築かれないものはないから、倫理学の研究は哲学及び哲学史の研究に伴わねばならぬのはいうまでもない。しかしここではそれには触れない。
 倫理学の根本問題と倫理学史とを学ぶときわれわれは人間存在というものの精神的、理性的構造に神秘の感を抱くとともに、その社会的共同態の生活事実の人間と起源を同じくする制約性を承認せずにはいられない
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