るのを見出しては、わが身に近く感じずにはいられない。この身に親しいインティメイトな感じが倫理学への愛と同情と研究の恒心《コンスタンイン》とを保証するものなのである。

     二 倫理学の入門

 倫理学の祖といわれるソクラテス以来最近のシェーラーやハルトマンらの現象学派の倫理学にいたるまで、人間の内面生活ならびに社会生活の一切の道徳的に重要な諸問題が、それを一貫する原理の探究を目ざしてとりあげられていないものはない。しかし初学者が倫理学研究の入門として、上述の倫理的問いをもって発足するには、やはりテオドル・リップスの『倫理学の根本問題』などが最もいいであろう。もっともこれはコーヘンとともに新カント派のいわゆる形式主義の倫理学であって、流行の「実質的価値の倫理学」とは相違した立場であるが、それにもかかわらず、深い内面性と健やかな合理的意志と、ならびに活きた人生の生命的交感とをもって、よく倫理学の本質的に重要な諸根本[#「根本」に傍点]問題をとりあげその解決、少なくとも解決の示唆を与えているからである。この本は生の臭覚の欠けたいわゆる腐儒的道学者の感がなく、それかといって芸術的交感と社
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