償《つぐな》い、生かし、いなむしろその過失によっていっそう完きものに近づく知恵を獲得することができたと思っている。この書はその過程の記録である。自分はこの書が後れて来たる青年に対して有益であることを信じないではいられない。それは自分の青春がすぐれて美しく、完全であるからではなく、かえって多くの過失を具《そな》えているからである。そしてその過失が償われて――少なくとも償う本道の上に立って進みつつあるからである。自分はこの書を後れて来たる青年に対して、今の自分が贈り得る最上の贈り物であることを信じる。人がもし心を空《むな》しくしてこの書を初めより終わりまで読むならば、きっと何ものかを得るであろう。そこには一個の若き霊魂が初めて目醒め、驚き、自己の前に置かれたるあらゆる生活の与件に対《む》かって、まっすぐに、公けに、熱誠に働きかけ、憧《あこが》れ、疑い、悩み、また悦《よろこ》び、さまざまの体験を経て、後に初めて愛と認識との指し示す本道に出でて進みゆき、ついにそれらの与件を支配する法則およびその法則の創造者に対する承認および信順の意識の暗示に達するまでの、生の歩みの歴史がある。この集に収むる文
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