tに有限であつて宇宙を統一する無限の作用をなす事は出来ない。この点より見て神は全く無である。然《しか》らば神は単に無であるか。決してさうではない。実在成立の根柢には歴々として動かすべからざる統一作用が働いてる。実在は是によつて成立するのである。神の宇宙の統一である。実在の根本である。そのよく無なるが故《ゆゑ》に在《あ》らざる処なく、働かざる所がないのである。(善の研究――二の十)
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 この氏のいわゆる神の本質に関しては、後に氏の宗教を観察するときに論ずることとしてここには主として認識論の問題より、神の認識について考えてみようと思う。
 しからばわれらはいかにして、この統一的或者を認識することが可能であるか。
 氏はここにおいてわれらの認識能力に思惟のほかに知的直観(intellektuelle Anschauung)をあげている。氏のいわゆる知的直観は事実を離れたる抽象的一般性の真覚をいうのではない。純一無雑なる意識統一の根底において、最も事実に直接なる、具体的なる認識作用である。知らるるものと知るものと合一せるものの最も内面的なる会得《えとく》をいうのである
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