ナあるためには、その一は数的一ではなくして部分を統一する全体としての一でなければならない。氏はこの要求よりヘーゲルの主理説にゆかねばならなかった。すなわち氏は実在をもって系統的存在となした。「すべて存在するものは理性的なり」とヘーゲルがいったように実在は体系をなしている。差別と統一とをおのれみずからの中に含んでいる。実在の根底には必ず統一が潜んでいる。統一は対立を予想している。対立を離れて統一はない。たとえばここに真に単純であって独立せる要素が実在せりと仮定せよ。しからばその者はなんらかの性質もしくは作用を有せなければならない。全くなんらの性質も作用もない者は無と同一である。しかるに作用するということは必ず他のものに対して働くのであって二者の対立がなければならない。加うるにこの二者が互いに独立して何の関係も無いものならば作用することはできない。そこにはこの二者を統一する第三者が無ければならない。たとえば物理学者の仮定する元子が実在するためには、それが作用する他の元子が存在しなければならぬのみならず、二者を統一する「力」というものを予想しなければならない。また一の性質たとえば赤という色が
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